なんにもないよ

虚無感がすごい

聖母

聖母が万人に降り注ぐ慈愛のように、性愛を降り注ぐことは可能なんだろうか。

 

この間、桜が家に泊まっていった。桜っていうのは大学の先輩で、先輩なのに後輩から舐められまくっている。誰も桜に敬語なんか使わない。
桜とは光と3人でよく呑んでいるのだが、今回は光が急に来れなくなったので2人で呑んでいた。

 

お酒もいい感じに回ってきた午前1時、ふと見ると桜の視線が熱っぽくなっていた。

内臓に手を突っ込んだかのように、不快に暖かく、ねっとりと私を見つめていたのだ。

 

「なぁ…こっちに、隣に来て…」

 

吐息多めの囁くような声。
桜の真向かいに座っていた私は、何も言わず、隣へ移動し、猫のようにすり寄った。

 

いつもそうなのだ。
人の頼みを断れない。
日常の些細な頼まれごとはともかく、私へ明確に好意を向けたうえで行われる頼みを無下にすることが、どうしてもできないのだ。
私はその人を好いていないのに。

 

桜の場合もそうだった。
桜のことを異性として見て好意を持ったことは、一度もない。
性的興奮を覚えたこともない。
よって付き合う気なんてさらさらない。
でも桜の性的な要求を断れないのだ。

 

桜が私を愛でている。
その手は気持ち悪く、私は身体を硬直させることしかできない。

だが、なぜだか私は他人に身体を明け渡すことが苦痛ではなかった。
撫で回されるのは気持ち悪いとは思うけど、気持ち悪い、だから何?とも思うのだ。


それ以上でもそれ以下でもない。
思考がゆっくり止まって、目の前がどろどろ溶けてくる。
気持ち悪い。
でも、でも、

 

私はできる限り期待に応えたいのだと思う。
好きな人には好かれたいでしょう?好きな人に拒まれたくないでしょう?
だから私はあなた方を拒みません。

私を好いてくれるなんて、万人を愛す神様くらいだと思ってた。
神様に、失望されたくない。

 

せっかく好きになってくれたのだから、私を好きになる人なんて希少なんだから、せめて、あなただけでも救いたい。


あなた方は私の神様で、私はあなた方の聖母になりたい。